PASTA(1)

PASTAというのは、Poisson Arrival See Time Averageの略で、ポアソン分布の到着は時間平均を見ることになるだろう」ということを主張する定理です。これの意味するところについては「時間平均と到着時平均」で述べた例を元に説明していきたいと思います。「時間平均と到着時平均」で述べた例

は、一定間隔でのジョブ到着でしたから、ポアソン分布の到着ではありません。よってPASTAの前提が成り立ちませんので、WIPの時間平均と到着時平均が異なってもPASTAの真偽には関係がありません。さて、「時間平均と到着時平均」で述べた例ではなぜ、WIPの時間平均と到着時平均が異なったのでしょうか? それは、いつもジョブ到着が、前のジョブの処理完了後に起きていたためです。そのために、到着するジョブはいつも空になったシステムを見ることになったわけです。ですから、到着するジョブはシステムのとり得る状態を公平に見ているわけではなく、ちょうどシステムが空になった状態だけを見ているということです。これは考えてみれば不公平なことです。
これとは対照的にポアソン分布の到着では、ジョブがいつ到着するかはまったくデタラメですから、結果としては、到着時のジョブはシステムのとり得る状態を公平に見ることになります。よって、WIPの到着時の平均と時間平均が(平均を取る時間を無限大にすれば)一致することになります。これが、私の理解する限りでのPASTAの直感的な理解です。
この時に、到着するジョブWIPに含めるべきか含めないべきか、という問題(「現実的なワーストケースの式への疑問(3)」で提出した問題)への解はまだ出ていません。PASTAをなるべく厳密に証明することによって、この疑問を解きたいと思います。

  • 「なるべく」と言ったのは、PASTAを証明するにはエルゴード性という概念を持ち出さないといけなくなるのですが、私の「エルゴード性」に対する理解がまだあやふやなためです。


話を戻して、先ほどの例でジョブの到着間隔を変動させた時の時間平均と到着時平均の実例を作ってみたいと思います。下のグラフのようにWIPが変動する例を作ってみました。

どの時点でジョブが到着したかは、WIPが1増える時点を探せば分かります。まず、このグラフからWIPの時間平均を計算してみましょう。

上の表のように計算を行いました。その結果は、時間平均=0.97個、です。次にWIPの到着時平均を計算します。

上の表のように計算を行いました。その結果、到着時のジョブWIPに含めないならば、平均0.5個、含めるならば、平均1.5個、という結果になりました。残念ながら、この場合も時間平均と到着時平均は一致しませんでした。それはそうと、この例が、時間平均と到着時平均の意味の違いを理解する助けになるとよいのですが・・・・。
PASTA(2)」に続きます。