プル生産システムのモデル化を目指して(1)

短寿命市場環境と短サイクルタイム(4)]」において

  • DBRの方策は一種のプル方針であるが、プルの効果を数学的モデルで示すことは出来ないか? これは恐らくMVA(平均値解析法)を用いるのだろう。

と書いた。実はこれを進めていく上で困難にぶち当たっている。
MVA(平均値解析法)については理解しているつもりだったが、見直してみるとMVA(平均値解析法)の前提の一つが納得がいかない。納得がいかないとそこで立ち止まって考え込むのは私の長所であり短所でもある。ここでは私の思考過程を記録しておく。こんなことを書いて人に読んでもらうのは気が引けるが、ネット上においておくと奇特な方が読んでヒントを下さるかもしれない。



最初に考えたことは、ステーションが直列に数個並ぶ簡単な生産ラインを考えて、そこでプッシュとプルの2つの方針で動かした場合のスループットサイクルタイムの関係を求めてグラフ化して比較しよう、ということだった。たとえば直列に4つのステーションが並ぶ生産ラインを考えよう。問題をさらに簡単にするために各ステーションは装置を1台だけ持つとしよう。

  • 図1


そうするとこの生産ラインの構成から、4台の装置は全て同じ量のスループットを引き受けることになる。そして問題をさらに簡単にするためにこの4台の装置はみな同じ平均処理時間を持っているとしよう。そうするとこの4台の装置は定常状態では同じ利用率を持つことになる。この利用率uで表そう。一方、ジョブがこのラインを通過する、(4つのステーションを通過する)、のに要するサイクルタイムCTで表そう。また、装置の平均処理時間をt_eで表そう。もしジョブが装置前で待つことがなければ、サイクルタイム4t_eになる。つまりこれは理想的なサイクルタイムである。現実にはどうしても待ち時間が発生してしまうのでサイクルタイム4t_eより大きくなる。ここで、実際のサイクルタイムが理想的なサイクルタイムの何倍になっているかの比、つまりX-Factoerを考え、これをxで表すことにしよう。つまり

  • x=\frac{CT}{4t_e}・・・・・(1)

である。
最初はプッシュとプルの2つの方針で動かした場合のスループットサイクルタイムの関係をグラフ化することを考えていたが、方針を少し変えて利用率uX-Factoerxの関係をグラフ化することにしよう。こうすると私たちは装置の処理時間t_eのことを気にする必要がなくなる。


まだこれだけではプッシュの場合であってもuxの関係は容易に求まらない。ここでさらに問題を簡単にするために4台の装置の処理時間は指数分布に従うことにする。


そしてプッシュの場合は、外部から生産ラインに到着する、つまりは先頭の装置に到着するジョブの到着間隔の分布も指数分布であるとする。つまり、ポアソン過程であるとする。つまりケンドールの記号の記号で表せば、この生産ラインの待ち行列の構成はM/M/1→/M/1→/M/1→/M/1のジャクソンネットワークである。


プルの場合は、ジョブが外部から生産ラインに到着するタイミングは、ラインの最後の装置で別のジョブが処理完了したタイミングになる。ここで考えているプル方針とは

  • 生産ライン内のジョブ数を一定に保つ

というものである。つまりCONWIPである。


さて、これだけの条件を設定した場合、プッシュ方針とプル方針でuxの関係はどのようになるだろうか?
私はもちろん、同じuの時はプルのほうがプッシュよりもxX-Factoer)が小さい、と予想する。


プル生産システムのモデル化を目指して(2)」につづきます。